賛否両論~柿の種と僕~見渡す限りの赤茶色いヤツら。そしてたまに僕の仲間の姿。ヤツらは僕を前後左右上下、文字通りに四方八方から取り囲む。まぁ別にヤツらも取り囲もうと思ってそうしているわけではあるまい。が、どうも比率からしてそう見えてしまうのだ。そしてこの言い方も。 「よぉ」 ヤツは軽い口調で僕に話しかける。 「まだいたのか」 「いきなりその話か」 僕はヤツの問いに問いで返す。 「君にはそのネタしかないのか」 「決着はついてなかったはずだが?」 ヤツは挑戦的な目で僕を見た。悪いやつではないのだが、何かやたらとしつこい。そもそも、この話は「人の好み」で終わらせたつもりだったが、ヤツはそれで納得しなかったらしい。 「やはりお前は邪魔な存在らしい」 「それは一部の意見だろう。たまたま君が耳にした人が『ピーナッツはいらない』と言っただけだろう?」 「なんだ。なら全ての人の意見を聞いて来いと言うのか」 「そんなことは言ってないし不可能だ。そもそも、僕がこの前言った『自分の役目』をまだ覚えてるか?」 「あぁ。『口が辛くなったところでピーナッツを食べることで、ピーナッツ本来の味が映える』だったな。それがどうした?」 「それが僕の存在意義の一つだ。僕がいなきゃ『柿ピーではない』と言う人だって少なくない。むしろそっちのほうが多いと思うけどな」 「バカだな。柿ピーと言うのは辛さを楽しむためのものだろ? お前がいたら辛さが一時的に中和されてしまうじゃないか」 「最初の一言は余計だ。ちなみに、柿の種を避けて僕だけを食う人だっている」 「邪道だな。そういうやつはバタピーでも食べてればいい」 「ほう? 柿ピーに邪道も糞もあったのか? 僕には、君らに埋もれた僕を探す、あの宝探し的な感覚はとても理解できるんだがな」 「食べ物にそんなことを求めるのか。くだらん」 「くだらないと思うのは君が固定概念から抜け出せないからだろう? それこそ、柿ピーの食べ方は日々変わっている。乃至は新しい食べ方が生まれていると言っても過言ではないかも知れんぞ」 「新しい食べ方が正しい食べ方とは限らん。俺が言ってるのは、本来の食べ方にお前は要らないと言っているのだ」 「君の言う本来の食べ方とはいったい何なんだ? 大体君だけで売られているモノもあるし、我々『柿ピー』と言う存在はおつまみの為に存在していると言ってもおかしくはないのだぞ? ビールの隙間に君だけでは物足りないから僕が入るようになったという説もある。そういうところから考えたら僕は欠かせない存在なんじゃないか?」 「俺は素で食べる者の話をしているのだ」 「誰がそんな風に決めたんだ? 言っておくけど、僕は柿の種しか食べない人を悪く思ってなどいない。それ以前に、僕には君が「人の好み」で納得できない理由が分からない」 「……ふ。所詮我々は食べ物。人に食べられるためだけに、何時間もここに文字通りの袋詰めにされてるだけではつまらんだろう?」 「で、暇つぶしに、と」 「そういうことだ」 「……ふふっ。たしかに暇つぶしではあるね。いいよ。続けてあげる」 と、その時。 突如眩しくなったと思ったら、視界に入っていた僕の仲間の姿が消えた。 続いて、僕の体がフワリと浮かぶ。 「あ」 声を出したのはヤツだった。 そして僕の視界が真っ暗になる。 僕はほんの少し、「勝った」と思った。 ~おしまい~ |